メッセージングアプリTelegramが展開するTONブロックチェーンの特徴と、オンチェーンデータからみる将来性について
本記事では、9億人以上の月間アクティブユーザーを抱えるメッセージングアプリTelegramが展開するTONブロックチェーンの特徴と、オンチェーンデータからみる将来性について書いていきます。
TON Japan Meetup公開資料(資料公開日:2024/7/7)
今回の記事は、以下のような構成で進めていきます。
1.TONブロックチェーンについて
2.TONブロックチェーンのエコシステムについて
3.オンチェーンデータで分析する将来性
4.まとめ
1. TONブロックチェーンについて
(1)TONブロックチェーンの歴史
TONは、The Open Networkの略称であり、Telegramチームによって開発されたブロックチェーンベースの分散型コンピューターネットワーク技術です。このプラットフォームは、堅牢でスケーラブルなブロックチェーンの構築を目指して2018年に始まりましたが、一時的に停止し、その後TON財団の下で再始動し、「Telegram Open Network」から「The Open Network」に名称が変更されました。
2020年5月、Telegramは米国証券取引委員会(SEC)との訴訟の結果、TONプロジェクトから撤退しました。現在は、Ton Foundationという非営利団体によってブロックチェーンと分散ネットワークの進化を促進し続けています。
(2)TONブロックチェーンの特徴
TONブロックチェーンは、プルーフ・オブ・ステーク (PoS)でありながら、Proof-of-Work Giverによってマイニングが出来た、新しいタイプのブロックチェーンです。2020年5月の裁判の後、Telegramチームは米国証券取引委員会との和解に同意してプロジェクトから撤退する際、彼らはTONブロックチェーンをスマート コントラクトに配置し、誰でも平等にマイニングできるようにしました。このマイニング手順とマイナーコードのリリースは2020年7月6日に行われ、その日がTONマイニングを開始された日になりました。最終的にすべてのTONブロックチェーンは、ICO、IEO、またはトークンセールを実施することなく、数万人のマイナーに配布され、ビットコインのような有機的な成長を反映しました。具体的な数字としては、希薄後時価総額が約5.3兆円、アクティブウォレット数でETHを超える成長を遂げました。
希薄後時価総額(2024/8/14時点)
アクティブウォレット数(2024/6/25時点)
また、TONブロックチェーンはイーサリアム仮想マシン(EVM)を使用しておらず、EVMとの互換性を持っていないレイヤー1ブロックチェーンという特徴があります。しかし、イーサリアム仮想マシン(EVM)と互換性のあるTONブロックチェーンエコシステム用のレイヤー2ネットワークとして、PolygonのChain Development Kit (CDK)を活用したTON Applications Chain (TAC)というプロジェクトも発表されています。
(3)TONブロックチェーンの購入経路
TONブロックチェーンの購入経路は、以下の3つです。
①クレジットカードで購入する
②P2P市場
③暗号資産の交換
③暗号資産の交換は、中央集権型取引所(CEX)や分散型取引所(DEX)で行うことができ、USDT、USDC、ビットコイン、イーサリアムなどをTON(Toncoin)と交換できます。
EVM互換性があるチェーンの資産をThe Open Networkに移動させるには、公式ブリッジを利用する必要があります。この公式ブリッジに対応しているチェーンは、現在イーサリアムネットワークとバイナンススマートチェーンの2種類のみです。
(4)スケーラビリティとユーザーエンゲージメント
2024年5月16日からの24時間以内に、The Open Networkは100万人以上の新しいユーザーを迎え入れました。これは、テレグラム上で人気のmemeゲームNotcoinのリスティングに伴う爆発的なオンチェーン保有者の増加が起因しています。この日はTON DEXでの取引活動、WNOTからNOTへのオンチェーン変換、そしてNotcoin JettonのためのNOT NFTバウチャーの積極的なスワップが増加しました。この活動は、TONエコシステム内のネットワークの強力な技術力と高いユーザーエンゲージメントを象徴しています。
Notcoin Active Owners & Holders
2.TONブロックチェーンのエコシステムについて
(1)Telegram上で完結するウォレット
TONブロックチェーンはイーサリアムネットワークと同様のレイヤー1ブロックチェーンなので、ユーザーのニーズや好みに応じて、複数のTONウォレットから選択する必要があります(※イーサリアムでいう所のmetamaskやrabbyなどのウォレット選択です)。
いくつか選択肢がある中でも、公式ウォレットが一番使い勝手が良いです。
「open wallet」のワンタッチでカストディアルウォレットを作成できます。
また、作成されたカストディアルウォレット(画像左)とシームレス連携が可能な、TON Spaceというノンカストディアル(画像右)を作成できます。このTON Spaceを使うことで、Telegram 内で TON ブロックチェーンに直接アクセスできます。
(2)多くのユーザーを抱えるミームコインとGameFi
TONブロックチェーンには、前述したNotcoinやCatizenなど、多くのユーザーを抱えるmemeやGameFiがあります。Notcoinのホルダーは現在250万で、イーサリアムのShibやソラナのBonkといったmemeのホルダーよりも多いです。また、コインマーケットキャップの時価総額ランキングで56位にランクインしており、マーケットからも高い評価を受けています。
Notcoinのホルダー(2024/8/9時点)
SHIBのホルダー/Bonkのホルダー(2024/8/9時点)
コインマーケットキャップの時価総額ランキング(2024/8/9時点)
Catizenは、2024/3/19にリリースされ、2024/8/9時点で総ユーザー数2800万以上、デイリーアクティブユーザー110万人以上を抱えるTelegram上のブロックチェーンゲームです。本ゲームはクレジットカードでの課金の他に、公式ウォレットと接続することで、デイリーチェックインやTON・USDTを使った暗号資産での課金ができます。このようなゲームを通したオンチェーントランザクション数は2400万を超えており、オンチェーンユーザーは170万以上です。
Catizen公式サイト(2024/8/9時点)
TON Japan Meetup公開資料によると、2024年7月時点の累積売上約18億円で、多くのユーザーを抱えると共に、堅調な売上上昇を記録しています。
TON Japan Meetup公開資料(資料公開日:2024/7/7)
(3)TONを支えるインフラ
TON(Toncoin)はバイナンス、OKXやBybitなどの有名で信頼性の高い中央集権型取引所(CEX)に上場しています。また、DeDustやSTON.fiといった分散型取引所(DEX)もあります。
上場している中央集権型取引所(CEX)(2024/8/9時点)
DEX以外にも、レンディングプロトコルのEVAAやステーキングのTON Stakeなどもあります。
また、イーサリアムネットワークのENSライクなドメインサービスのDNS、ExplorerのTonscan/Tonviewer、DUNEライクなオンチェーンデータ分析のre:doubtなど様々なサービスがあります。TON Ecosystemには、上記以外にもTONブロックチェーンの色々なプロジェクトがまとめてあります。
3. オンチェーンデータで分析するTONブロックチェーン
(1)主要DEXのTVLについて
2024/8/9時点のTONブロックチェーンのDEXは、DeDustとSTON.fiの二強状態で、TVLはどちらも4000万TON以上もあります。2024/4月にTONブロックチェーン上でUSDTの流通が始まった際、1,100万TONのインセンティブプログラムが同時に開始され、そこから急激にTVLが上昇しています。
2024/8/9時点のTONブロックチェーンのDEX(TON Main metrics)
TON、Telegramの9億ユーザーに照準──100億円相当のトンコイン奨励金を提供(2024/4/20時点)
二強状態の両者は、どちらもTelegram内でSwapが可能なminiアプリをリリースしています。2023年夏の時点では、MegatonというDEXが最大手でしたが、現在はTVLが大きく減少しています。MegatonはTelegram内でSwapが可能なminiアプリをリリースしていません。このように、たった1年で最大手のDEXが入れ替わる新陳代謝の高さは、TONブロックチェーンが黎明期である証明と言えます。
Telegram内でSwapが可能なminiアプリ(STON.fi DEX/DeDust.io App)
2023年夏の主要DEXのTVL($TON Crosses the Rubicon)
(2)ブリッジチェーンのステータスとTONの将来性を紐解く
前述したとおり、TONブロックチェーンへの公式ブリッジは、イーサリアムネットワークとバイナンススマートチェーンの2種類のみ対応しています。以下の画像の1枚目は、イーサリアムネットワークからTONブロックチェーンへのブリッジのボリュームとユーザー数(アドレス数)、2枚目はトランザクション数(ブリッジ回数)になります。どちらも2023/6/5と2024/4/8に大きな山があります。2023年6月は、TONコミュニティによるToncoinリアルタイムバーンの実装提案・承認が行われた月で、バーンによる供給減少がTON保有者に有利に働くと考えた大口の動きがあったと推測できます。また、2024/4/1にTON ユーザー、チーム、トレーダー向けの長期インセンティブ プログラムThe Open Leagueのシーズン1が開始したことが、ブリッジのボリュームとユーザー数とトランザクション数増加に繋がったと推測できます。
イーサリアムネットワークとバイナンススマートチェーンのTON(Toncoin)のボリュームは、2024年3、4月をピークとして減少しているものの、2024年8月10日時点で総ボリュームは、約370億円あります。この減少傾向は、CEXへの上場拡大による購入経路の拡大や、(クレジットカードで買えるTelegram内通貨)Telegram Starsの導入に伴うminiアプリ課金手段の多様化、TONブロックチェーンへのTON(Toncoin)流動性供給の落ち着きなどが起因していると考えられます。このようなイーサリアムネットワークとバイナンススマートチェーンのTON(Toncoin)のボリューム減少傾向とは裏腹に、TONブロックチェーンのアクティベートされたウォレットと月間アクティブウォレットは右肩上がりの増加傾向です。これは、TONブロックチェーン上でTON(Toncoin)を利用しているユーザー数の増加を意味しており、miniアプリ課金やエコシステムの利用などの実需に基づいたオンチェーン動向だと考えられます。そして、実需を生むためのアプリケーションは、The Open Leagueというインセンティブ プログラムによって開発・推進が促進されており、結果としてTONブロックチェーンへのユーザーエンゲージメント向上に繋がっています。
4.まとめ
TONブロックチェーンは、多くのアクティブユーザーを抱えるTelegramとシームレスにつながったエコシステムによって、デイリーアクティブウォレット数がイーサリアムを超えたこともあるレイヤー1ブロックチェーンです。
最近では、TONブロックチェーンを使ったプロジェクトの立ち上げを支援し、成長させることを目的にしたTONの日本コミュニティTON Japanが発足され、日本におけるTONブロックチェーンの盛り上がりも期待できそうです。
執筆者:こにちゃん
最後まで読んでいただきありがとうございました。