【事例あり】会員権をNFTにすることのメリットと新たな可能性
本記事では会員権をNFTにすることのメリットと新たな可能性をいくつかの事例を踏まえながら書いていきます。NFTによる活用を考える上で一つのユースケースとしてイメージしやすいので、是非本記事を参考にしていただければ幸いです。
synschismo Researchでは定期的にNFTエコシステム周辺の情報を発信しております。もし、NFT周辺で気になることや事業相談などあればお気軽お問合せください。
NFT会員権とは
NFTとは何か
NFTは非代替性トークンと呼ばれ、ブロックチェーンに格納するデータ(画像、文字、音声など)と送信先アドレス、送付アドレスなどの情報を改竄困難な形で書き込むことで、デジタルデータの実質的な所有概念を構築できるものです。
格納されたデータに関してはトークンと画像情報が紐づいているわけではないので情報をコピーできないなどの理解は間違っていますので注意してください。
NFTによる会員権とは
NFT会員権とは、会員権をNFTを用いてデジタル化したものです。ホルダーは何かのサービスやコミュニティの会員権であることをサービス外でも証明することができます。今回の記事では、
会員権でNFTを発行するメリット
会員権をNFTで発行した事例
会員権をNFTで発行する際の留意事項
NFT会員権の新たな可能性
について書いていきます。
会員権は既に社会の中でもすでにあるユースケースのため、利用用途のイメージがユーザー・事業者の中でもつきやすく今後も多くの事業者が参入してきます。NFTと言われると取引が行えることや金融的なユースケースを耳にしがちですが、設計次第で新しいユーザー体験を提供することができますのでNFTの会員権に取り組もうとしている、あるいは取り組みたい方はぜひ参考にしてみてください。
会員権でNFTを発行するメリット
ユーザー間取引が容易になる
NFTにおけるメリットの一つはユーザー間の取引が可能になることです。ユーザーは自分が使わなくなってNFTを売買したり、賃貸借することで使用できない期間も含めて会員権の利用効率を高めることができます。
もちろんNFT会員権を移転しないような形で発行することもでき、移転できないNFTはSBT(Soul Bound Token)と呼ばれます。SBTにすることで投機性を排除するというメリットもあります。
ダイナミックプライシングが可能になる
ユーザー間の取引が可能になることやユーザー間の物理的な移転コストがないことで取引にかかるコストが低くなり、紙のような会員権よりも取引が活発に行われるようになります。これにより、ダイナミックプライシングを採用できます。
もちろん企業にとってダイナミックプライシングを採用することの良し悪しがありますが、市場の需要に反応して価格の調整が可能になります。ダイナミックプライシングを採用しない場合、会員権の発行量を調整するなどにより価格の調整が可能になります。
発行元への還元
二次流通等の取引が盛んに行われると、取引総額の一部をロイヤリティとして発行元に還元することができます。後ほど紹介するPROOF Membershipは、OpenSeaだけでも33,375ETHのGMV(流通取引総額)を誇り、そのうちの7.5%がロイヤリティとして回収されているので、大まかに計算すると約2,500ETH(6億2000万円程度)の売上が発生しています。
注意が必要なのはロイヤリティは取引するプラットフォームごとに設定されているため、ユーザーがロイヤリティを採用しないプラットフォームで売買をすると発行元にロイヤリティが還元されない可能性があります。
他サービスとの連携が行いやすくなる
NFTの情報はブロックチェーンに載っているため、それらの情報はどのユーザーでも参照することができます。ブロックチェーン上に掲載されている情報のことをオンチェーン情報といいます。公開情報になっていてプライバシーはどうするのかという点においては、オンチェーン情報にすべきものとすべきでないものの設計を行う必要があるため、企画段階でその精査をする必要があります。
他サービスとの連携の例として、弊社の提供しているNFTauthというサービスはNFTの所有認証ソーリューションですが、後ほど紹介するCryptoBar P2PというNFTを会員権とした会員制バーにも導入いただいています。
仮にブロックチェーンを利用せずに社内のデータベースに会員情報が書き込まれている場合、私たちはその情報にアクセスできませんので、技術的な対応が必要になります。
しかし、P2PではNFTを会員権としているため認証するべきNFTの情報のアクセスは容易で、導入コストが非常に低くなります。
会員権をNFTで発行した事例
PROOF Membership
PROOF Membershipの発行元であるPROOFはMoonbirdsなどのNFTプロジェクトの開発を手掛けています。PROOF Membershipを保有することで、Discordのチャンネルに参加したり、Podcastをいち早く聞くことができます。
PROOFは、2022年の8月に$50Mの資金調達を行い、同時期にMoonbirdsのクリエイティブ・コモンズのパブリックドメイン(CC0)化の発表や2023年1月ごろに米国の大手タレントエージェンシーUnited Talent Agency(UTA)との提携を発表など精力的な活動を見せています。
NOT A HOTEL
NOT A HOTELは、NFT化した別荘の利用権を販売する事例です。同社のメンバーシップ制度では、物件(部屋)の利用権を1日単位にまで分割し、47年間利用できるNFTとして販売しています。これにより、高額な物件を購入することなく、1日単位での利用権を得ることができます。
またNOT A HOTEL NFTのホルダーは定期的に開催されるイベントの参加が可能になり、会員メンバーを中心とするコミュニティづくりも行なっています。
NOT A HOTELは今で言うRWA(Real World Asset)の領域のプロジェクトになります。RWAは現実世界のアセット(株式、国債、不動産、伝統工芸品…etc)をトークン化しブロックチェーンで取引することができるようにするカテゴリーのことです。NOT A HOTELは不動産のトークン化におけるセキュリティトークンへの該当性を前払い式支払い手段として整理しています。
Cryptobar P2P
先に触れたNFTを会員権とした会員制のバーになります。Cryptoと名前に入っているだけに店内では暗号資産での決済が採用され、クリプト好きやブロックチェーン事業者などの集まる店舗になっています(シンシズモのメンバーもよくお邪魔しています)。
年パスや月パスが発行される会員制のバーではありますが、当日券を購入することで1日だけ利用することもできます。月毎にNFTプロジェクトやブロックチェーン周りのサービスとコラボレーションを行っており、コラボプロジェクトとのAMAや会員向けイベントなども定期的に開催されています。
Starbucks Odyssey
Starbucks Odysseyは、コーヒーチェーン大手のStarbucksが発表したロイヤリティプログラムになります。Starbucks Odysseyの会員になり、提供されるゲームやミッションをクリアすることでエスプレッソ教室や限定イベントへの招待、コーヒー畑への旅行などの特典をもらうことができます。Starbucksは来店者への限定NFTの配布など継続的なNFT活用を進めており、大手のロイヤリティプログラムの中でのNFT活用ということで注目を集めています。
会員権をNFTで発行する際の留意事項
NFT周りに関する技術的理解
NFTを会員権にする上でまずNFTに対する誤った理解を避けましょう。流通時に発生するロイヤリティやウォレットがプロバイダーに縛られているなどはその代表的な例になります。話をする中で「それNFTできないの?」ということが度々発生しますので、企画を立案する段階でブロックチェーンやNFT周りを専門とするメンバーがいることが望ましいかと思います。逆に、しっかりとNFTを理解していればNFTである必然性にも説得力が増します。
また、技術的に可能かどうかという話と同程度に今後の展開を考えた上での設計をどのようにするかが重要になります。検討事項の例として以下のようなものがあります。
購入層はどのようなユーザーなのか
どのチェーンでNFTを発行するのか
受け取るためのウォレットがなんなのか
マーケットプレイスは自社で持つのか
何をNFTのプロパティとして含めるのか
イベント的にNFTを発行して終わりでなく、そのNFTによって新たな体験を実現したいのであれば、NFT周りの基本的な理解はしておくことが重要なことになります。
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社内教育やweb3領域の教育に関してご興味があれば是非そちらについてもご相談ください。
法律に関する注意点
NFT会員権を発行するにあたって証券性や違法性がないかを判断した上でサービスを立ち上げましょう。筆者は専門家ではないので、最終的な判断は専門家にご相談ください。
一例としてNOT A HOTELのような不動産関連のNFTを発行する場合、セキュリティトークン(有価証券性のあるトークン)に該当する可能性を前払い式支払い手段にして、不動産の金銭的な受益権はNFTの保有者にないことをあらかじめ整理しています。
他にも多くのNFTプロジェクトは賭博法や景品表示法に触れている部分がないかなどの事前調査を行い、法的に問題がないかを精査するケースが多くあります。
NFTに取り組む上では法的な部分に関しては慎重に精査しましょう。
NFT会員権の新たな可能性
ここからは筆者が考える今後のNFT会員権の可能性を書いていきます。
行動によって見た目が変わる!ダイナミックNFTによる会員権ステータス
ダイナミックNFTとは、何かのアクションやステータスによってNFTが表示するメタデータ(多くは画像データ)を変更するようなNFTです。クレジットカードにおけるゴールドカードやブラックカードのようなステータスをユーザーの行動に応じて自動で変更することができます。
ダイナミックNFT自体の事例が現状では少ないですが、ユーザー体験としてとてもわかりやすいことが特徴になります。
以下は弊社の代表 赤川が過去に作成したVery Grow MarimoというNFTプロジェクトになります。実は、このプロジェクトは、ダイナミックNFTの概念が登場する前にフルオンチェーンNFT(すべての情報がブロックチェーンに載っているNFT)で制作したものでした。
Very Grow MarimoはマリモNFTにさまざまな条件に応じて画像を変更することができます。マリモNFTのダイナミック性は以下のような形で取り入れられています。
餌NFTを手に入れることでマリモNFTが成長
背景NFTを手に入れることでマリモNFTの背景変更
着せ替えNFTを手に入れることでマリモNFTをドレスアップ
このようにユーザーの行動によりNFTの見た目を変えられる体験は直感的なため、今後NFTを使ってステータスを表現するということを見た目の変化で実装するという事例が増えてくると予想しています。
会員権がNFTを保有する!TBAによる会員権の拡張性
TBAはToken-Bound-Accountと呼ばれるERC721を拡張した規格で、とても簡単に説明をすると、NFTを持たせるようなことができます。これは先ほどのダイナミックNFTにもつながる体験ですが、来店証明やスコアをSBTやNFTとして発行する際にそのNFTをTBAにした会員権に持たせることでユーザーのステータスを会員権NFTで管理することができます。またユーザーは会員権を自分のステータスごと売買したりすることができ、会員権ごとに特性を持った形で市場に流通することができるようになります。
会員権が全て同じようなものでなくユーザーのステータスごとに変わるため、通常の会員権を通した体験とは変わったものになります。ダイナミックNFTとの組み合わせによりユーザーが会員権を育てるような体験をできたり、自分のステータスを自慢したりとSNSのような会員権も可能になります。
リアルな経済圏への融合!KYCによる安全な会員コミュニティづくりへ
大手の事業者がNFTを取り組むにあたりセキュリティ部分について聞いていただくことが増えています。特にコンプライアンスや反社会的勢力に対する予防策をどのように守り、セキュアな体験を作るかを重視します。
安全な体験を提供するという点で、最近筆者が注目しているプロトコルの一つにBlueというプロトコルがあります。このプロトコルに関しては個人的に紹介記事を書いているので是非読んでみてください。
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Blueがどういうものかを簡単に説明すると、KYCを通したウォレットに対してKYCを通したことの証明書をブロックチェーン上で発行します。その証明書の保有者間のみでしかやり取りができないトークンを発行することでこれまでのDeFiよりもセキュアな体験を実現しようとする試みです。
上記のようなKYCを通したユーザーでしかやり取りできないトークンというもののNFTが登場する可能性を筆者は予想しており、金融的な側面だけでなく、知財権の取引、会員権のようなコミュニティへのアクセストークンをリアルな場で活用する場合などNFTのユースケースの拡大とともに広がっていくものだと考えています。
まとめ
NFTを活用した会員権というのはユースケースとしてわかりやすいため今後も確実に増えていく領域になります。実際にNFTで会員権を実装するにあたってはNFTに対する正しい理解を前提として、違法性などがないかについては専門家とともにしっかりと精査をしましょう。
また、会員権をNFTにするだけではなく、Token Bound AccountやダイナミックNFTのような技術を取り入れることでよりユーザー体験がわかりやすくなったり、エンゲージメントが高めるような施策に展開できるとNFT会員権の可能性が広がると考えています。
執筆者:Gussan
もし、今回の記事でNFT会員権について気になった事業者様は是非一度お問合せください。
最後まで読んでいてだき、ありがとうございました。