【オンチェーン分析】オンチェーンでみる無期限レンディングサービスBlend
今回の記事は、5/1に発表されたBlurの新機能レンディングサービスBlendのトラクションや実態をオンチェーン情報から読み取っていきます。Blendの公式ドキュメントはこちらです。
本記事の構成については以下の通りです。
Blendの概要
Blendの仕組みについて
Blendのトラクション
各コレクションに関するトラクション
まとめ
Blendの概要
Blendは、トレーダー向けのNFTマーケットプレイスBlurが提供している無期限のP2Pレンディングサービスです。
関連記事:NFTのロイヤリティ問題を理解する
Blendの主な狙いはBlurマーケットプレイス内でのBNPL(Buy Now Pay Later)の実現にあります。借り手の想定される動きは以下の通りです。
自分の持っているNFTを担保としてトークンを借入
借りたトークンでNFTを購入
購入したNFTを購入額よりも高値で売却
売却で得たトークンで返済し、残額を借り手の利益として獲得
このように借り手は自分の持っているNFTを使ってレバレッジをかけることができるようになります。トランザクションを見る限り、担保によって借入られるトークンはBLURトークンというBlur内で使える1ETH = 1BLURの価値をもつトークンです。
なので、BlurとしてはBlendでBNPLを実現し、より高いNFTの売買やNFTの資本効率の向上を促進させたいという狙いがあります。
Blendの仕組みについて
先述の通り、BlendはNFTを担保として借入を行いますが、あらゆるNFTが対象になっているわけではありません。執筆時点(2023/5/20)で、対応しているNFTは以下の6種類です。
Milady Maker
Azuki
Wrapped Cryptopunks
Mutant Ape Yacht Club
Bored Ape Yacht Club
DeGods
また、Blendにはいくつかの特徴を掲げています。
オラクルがない
Blendの提供するレンディング機能はPeer to Peerの取引をベースにしています。つまり、貸し手と借り手の当事者間で完結し、貸し手が納得した条件でのみ融資が成立します。
返済期限に決まりがないこと
デフォルトの機能では、返済期限を設けないで、貸し手が担保を有効と判断している限り、借入のポジションが残り続けます。
金利オークションによる融資の更新と清算
返済期限を設けた場合、返済期限を過ぎてしまった借り手のNFTは清算を受ける前に、貸し手側で金利オークションが行われます。
金利オークションは0%からスタートして、この金利であれば新しい貸し手として貸し出してもいいという金利を提示します。そのオファーを受け入れることで、元の貸し手は新しい貸し手から返済額全額を受け取り、新しい貸し手が新たな返済期限を設定します。
オークションを通して新たな貸し手が登場した場合、返済期限の延長が行われ、出なかった場合、NFTは清算され貸し手の元に渡ります。
Blendのトラクション
Blendのトラクションを見ていきましょう。以下に掲載するBlendに関するダッシュボードはこちらから見ることができます。
5/20時点でBlendは以下のようなトラクションを獲得しています。
サービスリリースから約20日で10,000件近くのローンが発生
ローン全体のうち半数近くが借入の更新
借り手のユニーク数は約1000人(1ユーザあたりの平均ローン回数が約10回)
総融資額は約91,000ETH
清算回数は180回(清算率:1.8%程度)
下記の図はNFTFiやBendDAOをはじめとするNFTを担保としてトークンを借り入れるようなプロトコルの取引量の推移を示しているものですが、5月からBlend(Blur)が大きく伸びているのがわかります。BlendはNFTFi領域では驚異的なボリュームで成長しています。
一方で、3/1以降のBlur内の取引量の推移を見てみるとBlendが登場した5月時点からも大きな伸びがないことがわかります。これは前提としてBlendを使えるユーザーが対象となる担保のNFTを持っている必要があることに起因するのではないかと筆者は考えています。
担保対象となるNFTの種類は徐々に増えており、ローンチ当初はMilady、Azuki、Wrapped Cryptopunksの3種類でした。それからDeGodsやBAYC、MAYCも追加され、取引ボリュームも大きくなっています。
APYとローンのサイズの分布を確認すると、以下のような分布図になります。APYはユーザーが自由に設定するなどもできるのですが、視認性が下がってしまうので下図では100%を上限として表示しています。
LTV(Loan To Value: 担保となる資産価値に対する借入額の比率)の指標としてフロアプライスをある程度の基準として線引きがされ、それぞれコレクションごとの借入の限度額がわかります。
各コレクションのAPYの度数分布は以下のようになっています。0%~5%のユーザーがほとんどを占めており、おそらく$BLURのエアドロップをモチベーションとしたユーザーが低いAPYで出されている融資のオファーに流れているためです。(貸し手は融資を起こすことでエアドロップの確率を高めています。)
清算されたNFTについてみていきましょう。Blendの仕組みの中で述べたとおり、清算が起こったということは、オークションに参加者が現れず、新たな貸し手が見つからなかったことを示します。オークションで新たな貸し手が見つからないことには以下の理由が考えられます。
担保機能の不確実性(担保資産が融資額を超過あるいは上限に近い)
借り手の返済の不確実性(APYが高く、返済が現実的ではない)
そこで以下の図では現在のフロアプライスがを基準としたLTVとAPYの分布を示したものです。
多くはLTVが100%近くある融資に対して清算が起こっていることがわかります。
Miladyが60%程度で清算が起こっているのは、Elon MaskがMiladyの画像を添付したツイートをしたことでフロアプライスが急騰したことに起因しています。(清算当時のLTVは100%周辺)
各コレクションに関するトラクション
このセクションではBlendが各NFTコレクションにもたらす影響を分析していきます。今回はBlendローンチ初期から対応していたMilady Maker、Azuki、Wrapped Cryptopunksの3つのコレクションに絞りました。
以下に掲載する各コレクションに関するダッシュボードはこちらから閲覧することができます。デフォルト以外のコレクションを見る場合、少し処理が多いのでクレジットを利用して処理速度をMediumかLargeにすることを推奨します。
Milady Maker
5/20時点でのMiladyの基本的な数値は以下の通りです。
発行数:10000点
ユニークホルダー数:3452アカウント
ユニークホルダー率:34.5%
MiladyのBlendに関する数値は以下の通りです。
Miladyを保有している3452アカウントのうちの504アカウント(14.6%)のホルダーが借り手となっています。
下記の図では青線はマーケット全体での取引量、棒グラフはBlendでのローン発生回数の推移を示しています。
次に赤線はフロアプライスを、棒グラフはBlendでの発生した日毎のローンボリュームを示しています。
Blendとどの程度との因果関係があるかは未検証ですが、Blendローンチの初日はMiladyの取引量とフロアプライスは上昇しています。
5/10にイーロン氏のツイートにより注目度を集めたことで取引量が急激に増加し、フロアプライスも上がりました。フロアプライスの増加によりLTVが高まりローンサイズが大きくなるので、全体のローンボリュームも比例して大きくなります。
Azuki
5/20時点でのAzukiの基本的な数値は以下の通りです。
発行数:10000点
ユニークホルダー数:4618
ユニークホルダー率:46.2%
AzukiのBlendに関する数値は以下の通りです。
Azukiを保有している4618アカウントのうちの354アカウント(7.6%)のホルダーが貸し手となっています。
マーケット全体での取引量とBlendでのローン発生回数
フロアプライスとBlendでの発生したローンボリューム
フロアプライスとポジションの清算回数
Miladyと同様に、Blendローンチの当初は取引量・フロアプライスが上昇しましたが、すぐに下降傾向となっています。フロアプライスの急落によりLTVが上昇し、数件の担保清算が発生しています。
Wrapped Cryptopunks
5/20時点でのWrapped cryptopunksの基本的な数値は以下の通りです。
発行数:763点
ユニークホルダー数:127アカウント
ユニークホルダー率:16.6%
Wrapped CryptopunksのBlendに関する数値は以下の通りです。
Wrapped Cryptopunksを保有している127アカウントのうちの94アカウント(74.0%)のホルダーが貸し手となっています。
マーケット全体での取引量とBlendでのローン発生回数
フロアプライスとBlendでの発生したローンボリューム
フロアプライスとポジションの清算回数
Wrapped Cryptopunksは供給量が少なく、全ホルダーの4分の3近くのアカウントがBlendを使用しています。5/2以降にWrapped Cryptopunksのフロアが急落したことで清算が起こっています。
担保の清算が起こると貸し手は融資分を補填するため売りに出します。これが複数件同時に起こることで売り圧を発生させるので、さらに価格が下がります。AzukiとCryptopunksの両方においてフロアプライスの下落が二段階になっていますが、この清算が一つの原因と考えられます。
まとめ
NFTのレンディングサービスBlendをオンチェーン情報から読み取ってきていました。通常のレンディングプロトコルとは違い、マーケットプレイスの内部機能としてレンディングを提供することでBNPLとして資本効率を高めることができるユーザー体験を実現しています。
筆者としては新たな清算機構として採用された金利オークションがどのようにワークするのかが気になっています。
ローンチから3週間ほどで100,000ETH近くの取引量をもたらしており、今後コレクション数の拡大によりNFT市場へ大きなインパクトをもたらすことが期待されます。
今回の記事内で使用したダッシュボード:
弊社ではNFTの企画から運用まで一気通貫でサポートさせていただいております。NFTの利活用に少しでもご興味ある事業者様は、ぜひご連絡ください。
当メディアでは、NFTやブロックチェーンに関する正しい理解が身に付くように引き続き発信していきますので登録お願いします。